社用車で事故に遭った場合の責任は?事故のリスクを低減するための対策について解説

社用車を使用する企業にとって、従業員が社用車で事故を起こした場合の責任の所在や損害賠償の範囲は、事業継続に関わる重大事項であるため、正しく理解しておくことが必要です。
社用車の事故は、運転者である従業員だけではなく、車両の所有者である会社側にも大きな責任と負担が生じるため、あらかじめリスクを把握し、対策を講じておくことが重要です。
ここでは、社用車事故の責任区分や、事故発生時にどう対処すべきか、さらに事故を未然に防ぐための対策について詳しく解説します。
目次
■社用車の事故で問われる責任の範囲
社用車の事故は、従業員側だけでなく会社側も責任を負う必要があります。会社は従業員に業務として車を運転させている以上、従業員の安全運転を適切に指導・管理しなければなりません。
以下では従業員と会社のそれぞれの責任の範囲について解説します。
従業員(運転者)の責任

社用車を運転中に事故を起こした従業員は、「民事責任」「刑事責任」「行政責任」の3つの責任を問われることになります。以降では、それぞれの責任について詳しく解説します。
まず、民事責任としては、民法第709条(不法行為による損害賠償)に基づき、被害者に生じた損害を賠償する義務が発生します。人を傷つけた場合は治療費や慰謝料、休業損害、逸失利益など、人身事故に伴う多額の賠償請求につながる可能性があり、物損事故であっても破損した物品の修理費用を支払う義務が生じます。
次に、刑事責任としては、運転によって人を負傷させたり死亡させたりしてしまった場合、「刑法」や「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に基づき、罰金刑や懲役刑が科される可能性があります。
物損事故でも、わざとぶつけたなど故意による悪質な行為があれば、器物損壊罪(刑法第261条)に該当するおそれがあるため注意が必要です。
さらに、行政責任としては、道路交通法及び道路交通法施行令に基づく基準により、免許停止や免許取消といった処分を受けることがあります。
重大な事故であればあるほど、長期の免許停止や取り消し処分になる可能性があり、運転者にとっては今後の業務や生活に直結する深刻な問題となります。
引用元:
交通事故の負荷点数 (警視庁)
行政処分基準点数 (警視庁)
会社(所有者)の責任

従業員が業務中に社用車で交通事故を起こした場合、会社にも一定の責任が生じます。
この責任は主に「使用者責任」と「運行供用者責任」の2つに分類され、事故の状況に応じて会社が負うべき責任の範囲が決まります。それぞれの責任について詳しく見ていきましょう。
使用者責任
使用者責任とは、民法第715条(使用者等の責任)に基づくもので、企業などの「使用者」が 、業務中に犯した従業員(被用者)の不法行為に対して、代位責任として賠償責任を負う制度です。
従業員が社用車を運転中に事故を起こし、第三者に損害を与えた場合、使用者責任が適用されます。つまり、業務の一環として運転していた従業員の過失が原因で事故が発生した場合、会社もその損害を賠償する責任を負う必要があります。
運行管理者責任
運行供用者責任とは、自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条(自動車損害賠償責任)に基づき、自動車を使用して利益を得ている者が、事故によって起きた損害について責任を負うという制度です。この条項には、運行供用者が責任を免れるための免責事由が定められています。運行供用者が責任を免れるためには、以下の3つの条件をすべて証明する必要があります。
- 自らおよび運転者が自動車の運行に関し、注意を怠っていなかったこと。
- 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと。
- 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと。
これらの条件がすべて満たされると、運行供用者は責任を免れる可能ですが、これらの要件を立証することは極めて難しく、免責されるケースは非常に限定的です。
会社が自社の車両の安全性を確保し、適切なメンテナンスや運転指導を行っている場合でも、事故が発生した際にはその管理責任が問われることになります。
■タイミングによる責任の所在について
社用車事故における責任は、起こした事故がどのタイミングで発生したかによって変わることがあります。業務を遂行していた最中なのか、あるいは従業員の私的な理由で運転していたのかにより、企業が負うべき範囲が異なるのです。
業務中
業務中に社用車で事故が発生した場合、会社には「運行供用者責任」や「使用者責任」が問われる可能性があります。つまり、会社は従業員が業務の一環として車両を使用していた場合、被害者に対して賠償責任を負うことになります。
ただし、事故を起こした運転者にも責任が発生するため、会社が賠償した場合でも、その後に運転者に対して求償することが可能です。社用車にかかっている保険で、被害者に補償するケースが多いですが、求償の可否は就業規則やその他の社内規定に基づき判断されます。
業務時間外
業務時間外に発生した事故も、社用車を使用していた場合、会社に「使用者責任」や「運行供用者責任」が問われる可能性があります。たとえば、業務に関連した移動や、社用車を私的に使っていた場合でも、事故が起きれば会社の責任が問われます。
また、従業員が「無断」で社用車を使用した場合でも、過去の判例では会社側が『使用者責任』や『運行供用者責任』を問われたケースがあります。特に、社用車の管理体制が不十分であった場合には、会社の責任が認められる可能性があるため、管理体制には細心の注意を払う必要があります。
通勤中・帰宅中
通勤や帰宅途中の事故においても、会社には『使用者責任』や『運行供用者責任』が発生する可能性があります。ただし、通勤・帰宅の途中で私的な目的のためにルートを外れていた場合や、無断で私用の運行を行っていた場合には、会社の責任は否定される可能性もあります。
通勤ルートを逸脱せず、客先等への直行直帰など業務の一環として認められる場合には、業務中とみなされ、会社に責任が生じることもあります。そのため、通勤中や帰宅中の事故についても、具体的な状況に応じて会社としての責任の有無が分かれます。
■自家用車で事故を起こした場合
従業員が自家用車で事故を起こし、相手方に損害を与えた場合でも、その状況によって会社に「使用者責任」や「運行供用者責任」が問われる可能性があります。
会社の業務遂行の範囲内での移動であれば、会社が責任を負う場合も考えられますが、一方で通勤や帰宅途中に私的な目的でルートを逸脱していた場合などは、会社の責任が否定されることもあります。
■社用車事故における賠償と保険について
社用車による事故は、会社と従業員が連帯して被害者への賠償にあたる場合も多いですが、保険契約によって負担が軽減されるケースもあります。
特に会社側が加入している法人向けの自動車保険を活用すれば、被害者への賠償金だけでなく、社用車の修理費用なども幅広く補償されることがあるため、賠償リスクを最小限に抑えられます。
法人向け自動車保険の活用
法人向け自動車保険は、個人契約と比べて補償範囲が広く、車両の用途に応じて柔軟にプランの組み合わせができることが特長です。対人・対物賠償に加え、車両保険や搭乗者傷害保険などを充実させることで、万が一の事故に備えることができます。
社用車を一定台数以上保有している場合、複数の車両をまとめて契約する「フリート契約」を利用することができます。これにより、保険料の割引や車両の入れ替え手続きの簡素化などのメリットがあります。なお、フリート契約の適用条件や詳細については、保険会社や代理店に確認することが重要です。
■事故を起こしてしまった場合の適切な対応ステップ

社用車による事故は決して起きて欲しくないトラブルですが、もし発生してしまった場合は冷静な対応が求められます。適切な手順を守ることで、二次被害を防ぎ、被害者とのやり取りや保険手続きもスムーズに進めることができます。
①負傷者の救護を行い、車両を安全な場所へ移動
事故が発生した場合、まずは自身や周囲の安全を確保し、負傷者がいる場合は直ちに救護措置を講じます。二次被害の防止のため、可能であれば車両を安全な場所に移動させましょう。
②警察へ連絡をする
交通事故が発生した場合、事故の規模に関わらず、警察への通報は義務となっています。警察へ通報し現場に来てもらうことで、事故証明書の発行など、必要な手続きを円滑に進めることができます。後々の保険請求の際にも重要な書類となるので、必ず警察に報告し、現場検証を受けましょう。
③会社・保険会社へ連絡をする
負傷者の救護および警察への報告を行った後、速やかに会社と契約している保険会社へ連絡をします。会社としては、状況を把握し対応方針を検討することが必要です。そのため、事故の詳細を正確に伝えることが求められます。保険会社にも事故の事実と概要を伝えておくことで、示談交渉や必要書類の準備など、次のステップに備えることができます。
④事故の状況を確認し、記録しておく
後々トラブルが発生することを回避するためにも、事故現場の写真や動画の撮影を行うことや、相手方の氏名、連絡先、車両ナンバー、保険会社名などを確認しておくことが重要です。警察が到着するまでの間に、ブレーキ痕の有無や車の破損状態などをできる限り記録しておきましょう。
口頭での言い分だけではなく、客観的な情報を残すことで、示談交渉や保険金請求がスムーズに進む場合が多くなります。
■社用車事故を防ぐための対策
社用車による事故のリスクをゼロにすることは難しいかもしれませんが、適切な予防策を講じることで発生確率を大幅に下げることは可能です。経営者や管理者が必要な設備・教育に投資し、従業員が規則正しく安全に運転できる環境を整えることが鍵となります。
安全運転をサポートするITツール・アプリの導入
近年では、運転挙動を検知して危険運転を警告する装置や、車内カメラ・ドライブレコーダーの映像をリアルタイムで管理する仕組みが広く普及しています。これらのITツールを活用すると、ドライバーの走行データが蓄積されるため、事故の傾向を分析しやすくなります。さらに、不注意運転や速度超過が発生した際には警告が出る機能もあるため、従業員が安全運転を意識しやすい環境が整います。
また、運転前後のアルコールチェックをクラウド上で一元管理できるシステムを導入することで、飲酒運転の未然防止にもつながります。例えば、インフォセンスの『デジタル点呼マネージャー・スマート 』では、各ドライバーのアルコールチェック結果が自動的にデータ化されるため、万が一異常値が検出された際にも迅速に対応できます。
安全運転のサポートツールを包括的に取り入れることで、より徹底したリスク管理体制が構築できるでしょう。
運転前後の点呼の徹底
運行管理や輸送安全が求められる業種だけでなく、社用車を使う全ての企業が行うべきことは、点呼を通じた運転者の状態把握です。
運転の前後でアルコールチェッカーを使ったアルコールチェックを実施するほか、運転者が自身の体調を申告するルールを作っておくと、万が一の飲酒運転や体調不良による交通事故を未然に防ぐことができます。特に長時間運転や夜間運転の多い会社は、徹底した点呼を行うことが重要です。
定期的な社内教育や研修の実施
安全運転の意識は、一度研修を行っただけで永続的に維持できるものではありません。定期的に安全運転講習や事故防止セミナーを実施することが大切です。
過去の事故事例やヒヤリ・ハット体験などの情報交換をすることで、自分の運転の危うさに気づき、職場全体で安全意識を高めるきっかけになるでしょう。
社用車のメンテンスや管理の徹底
社用車の定期点検を怠ると、ブレーキやタイヤなどの不具合による事故につながるおそれがあります。法律で定められた点検だけでなく、日常点検や走行距離に応じた部品交換などを徹底し、万全の状態で車を運転することが大切です。
車両管理責任者を明確にするなど組織的な管理ルールを定め、実際にルール通りにチェックが行われているか定期的に確認をすることも有効です。
■まとめ
社用車の事故は、運転者である従業員だけでなく、車両所有者としての会社にも大きな責任と損害が及ぶ重大なリスクです。特に業務中に起きた事故の場合は、会社が使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性があり、被害者への損害賠償や社内での管理体制の見直しを求められることもあります。
こうしたリスクから会社を守るためには、適切な保険に加入し、事故後の対応フローを整備するだけでなく、日ごろから安全運転への意識づけや車両の点検・管理の徹底を行うことが欠かせません。
社会的にもドライバー不足が深刻化し、限られた人員で効率的に業務を回すことが求められるなか、事故リスクを最小限に抑える仕組みが求められています。
企業が率先して運転挙動の検知システムやアルコールチェック管理システムなどの安全運転支援ITツールを導入し、従業員一人ひとりの安全意識を育む研修を継続することで、社用車事故のリスクを大幅に低減できるでしょう。