アルコールチェック記録簿の運用ガイド!義務化に基づく記載内容と運用方法について解説

アルコールチェックの記録簿は、特に運転業務が関連する企業にとって、法令遵守を確実にし、従業員の安全を守るために欠かせないものです。アルコールチェック自体が義務化されたことにより、企業は単にチェックを実施するだけでなく、その結果を正確に記録し、保存する責任も負っています。本記事では、アルコールチェック記録簿の運用方法や記載すべき内容、そして適切な運用方法について解説します。
目次
■アルコールチェックの義務化

アルコールチェックの義務化は、近年の重大な交通事故を受けて、企業の運転業務における安全性を強化するために進められています。特に、2021年に千葉県八街市で発生した、小学生5名が大型トラックに轢かれて死傷した事故が大きな契機となりました。この事故を受けて、警察庁は運転業務を行う事業者に対して、アルコールチェックを義務化する方向で動き始めました。これが、アルコールチェック義務化に至る法改正の始まりです。
改正法の第一段階として、2022年4月から運転者の酒気帯び有無を目視や臭いで確認し、記録を1年間保存することが義務化されました。この改正により、一定規模の車両を使用する事業者は、運転前後にアルコールチェックを行う必要が生じました。
第二段階の改正では、2022年10月からアルコール検知器を使用して酒気帯びの有無を確認することが義務化される予定でしたが、当時、半導体不足により十分な数のアルコール検知器を供給することが不可能となり延期になりました。その後、2023年12月1日に改正法が施行され、アルコール検知器を使用したチェックが義務化されました。
企業はこれに従い、アルコール検知器の導入や運用体制の整備を進めるとともに漏れのないアルコールチェックの記録を行う必要があります。
参考記事:アルコールチェック義務化
参考:安全運転管理者の業務の拡充等(警視庁)
■アルコールチェックの基本的な進め方

【乗務開始前のアルコールチェック】
運転者が乗務を始める前に、運転者と安全運転管理者等の管理者による対面でのチェックを実施します。対面チェック時は、運転者の状態(顔色、呼気の臭い、声の調子など)を管理者が目視で確認します。加えて、運転者は、アルコール検知器を使用して自身のアルコール濃度を測定し、管理者へ報告します。管理者は、アルコール測定の結果やその他必要な事項を記録簿へ記入します。
【乗務終了後のアルコールチェック】
運転者の乗務終了後も、運転者と安全運転管理者等の管理者による対面のチェックを再度実施します。乗務開始前と同様、管理者は運転者の状態を目視で確認し、アルコール検知器での測定結果を確認します。管理者は、アルコール測定の結果やその他必要な事項を記録簿へ記入します。
なお、直行直帰などで乗務前後の対面チェックが困難な場合は、携帯電話等を使い、運転者と管理者が直接対話できる方法でのチェックを行うことも可能です。その際もアルコール検知器の利用は必須となるため、運転者は携帯型アルコール検知器を携行することが必要です。
【記録簿の管理と提出】
事業所ごとに記録簿を紙で管理している場合、総務部のような統括管理する部門へ記録簿を提出し、記録の抜け漏れがないかなど、統括管理部門にて再度確認を行っているケースが多くあります。記載内容に不備があれば、各事業所の安全運転管理者等へ修正を依頼します。このようにして、記録が正確かつ完全であることを確認し、適切な記録を保持することができるよう努めます。
【記録の保管】
最終的に、記録簿は法令に基づき1年間保管されます。
このように、アルコールチェックは乗務開始前、終了後の2回に分けて実施され、運転者の状態確認やチェック結果の記録が行われます。これらの手順を適切に行うことで、安全運転を確保するとともに、法令に基づく記録管理を実現できます。
■アルコールチェックを実施できる者は?

安全運転管理者
安全運転管理者は、アルコールチェックを徹底する上で最も重要な役割を担っています。運転業務に従事する従業員のアルコールチェックを定期的に行い、その結果を記録簿に正確に記入する責任があります。また、万が一アルコールが検出された場合、必要な対応を取る義務があります。このため、安全運転管理者には一定の実務経験や能力が求められ、アルコールチェックの重要性を理解した上で業務にあたることが必要になります。参考記事:安全運転管理者が行うべき業務とは ~これから安全運転管理者になる方へ向けたキホンの”キ”~
副安全運転管理者
副安全運転管理者は、安全運転管理者をサポートする役割を担います。安全運転管理者が不在の際には、安全運転管理に関する一部職務を代行します。アルコールチェック時に安全運転管理者が不在の際には、その代理としてアルコールチェックを実施することもあります。ただし、アルコールチェックに関する責任者はあくまで安全運転管理者です。アルコール反応が出るなどの問題があった際には、安全運転管理者に対して速やかに報告を行う必要があります。副安全運転管理者は、企業の安全管理体制をサポートし、全体の運用がスムーズに進むよう努める役割を担います。その他の補助者
場合によっては、安全運転管理者や副安全運転管理者に加え、各事業所で独自に指定した従業員(補助者)によってアルコールチェックの実施や記録簿の管理に関与することもあります。補助者の指定において資格要件はなく、届出の必要もありませんが、徹底したアルコールチェック実施のために社内教育が必須となるでしょう。■アルコールチェック記録簿に記載すべき内容
アルコールチェック記録簿には、必要な情報を漏れなく記載することが求められます。企業が法的に義務づけられている項目を正確に記入しなければ、後に問題が発生した際に証拠として認められない可能性があります。そのため、記録簿には必要な内容を丁寧に記入することが重要です。記載内容の詳細
アルコールチェック記録簿に記載すべき内容は以下の通りです。① 確認者氏名
② 運転者氏名
③ 運転者の業務に係る自動車登録番号または識別できる記号など
④ 確認の日時
⑤ 確認の方法
② 運転者氏名
③ 運転者の業務に係る自動車登録番号または識別できる記号など
④ 確認の日時
⑤ 確認の方法
・アルコール検知器の使用の有無
・対面でない場合は具体的な確認方法
・対面でない場合は具体的な確認方法
⑥ 酒気帯びの有無
⑦ 指示事項
⑧ その他必要な事項
これらの項目は、法的に求められているものであり、正確に記録しておく必要があります。保存方法や記録方法に特別な指定はないため、紙媒体での記録及び保存でも問題はありません。より効率的かつ確実な管理を希望する場合は、電子データでの保存を検討するなど、記録の漏れや保存に不備がないように工夫するとよいでしょう。
⑦ 指示事項
⑧ その他必要な事項
記入例
例えば、記録簿には次のような形式で記入します。■アルコールチェック記録簿の運用方法
アルコールチェック記録簿の管理方法としては、紙での管理とデータでの管理があります。それぞれの方法にメリットとデメリットがあり、企業は自社の運用体制に合わせて最適な方法を選ぶことを推奨します。紙による管理方法
アルコールチェック記録簿の管理方法としては、紙での管理とデータでの管理があります。それぞれの方法にメリットとデメリットがあり、企業は自社の運用体制に合わせて最適な方法を選ぶことを推奨します。データによる管理方法
一方で、データでの管理方法も普及しています。専用のクラウドサービスを利用することで、データのバックアップや検索、整理が簡単に行えます。データ管理は紙の管理に比べて効率的であり、セキュリティ面でも優れています。企業は、どちらの方法が自社の業務に適しているかを判断して運用するとよいでしょう。例えば、弊社の「デジタル点呼マネージャー・スマート」を活用した場合、記録簿の管理が効率化され、ペーパーレス化が進みます。加えて、記録の抜け漏れや改ざんのリスクも低減され、アルコールチェック記録管理の品質が飛躍的に向上します。気になる方は是非下記資料をご覧ください。
■アルコールチェック記録簿を簡単に管理するためのテンプレート
アルコールチェック記録簿を効率的に管理するためには、テンプレートを活用することが効果的です。インターネット上では、無料でダウンロードできるテンプレートが多く提供されており、それを自社のニーズに合わせてカスタマイズすることができます。以下ではテンプレートをいくつかご紹介します。参考:アルコール検査記録簿(モデル様式)(国土交通省)
参考:アルコールチェック記録様式「酒気帯び確認記録表(例)」(島根県安全運転管理者協会)
参考:アルコールチェック義務化(千葉県安全運転管理者協会)
参考:安全運転管理者によるアルコールチェック義務化(宮崎県警察本部)
■アルコールチェックを記録する際の注意点
アルコールチェックの結果を記録する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを守ることで、記録が不正確になることを防ぎ、法的責任を全うすることができます。安全運転管理者が不在時の記録
安全運転管理者が不在の場合でも、アルコールチェックを実施し、その結果を記録する必要があります。この場合、代わりに副安全運転管理者や補助者に指定されている担当者がチェックを行います。記録簿には、代行者の名前を正しく明記しておくことが重要です。これにより、後から確認が必要な際に責任の所在が明確になります。記録を怠った場合は罰則となる
アルコールチェックの実施やその結果の記録は、安全運転管理者の義務として、道路交通法施行規則第9条の10に明記されています。怠った場合に直接的な罰則が科される規定は存在しないものの、万が一、公安委員会から保存された記録の提出を求められた際に、アルコール検査が実施されていなかったり、記録が残されていなかったりすることが判明すると、企業の安全運転管理が不十分であると見なされることになります。出典:道路交通法施行規則 第九条の十(安全運転管理者の業務) (e-Gov法令検索)六 運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について、当該運転者の状態を目視等で確認するほか、アルコール検知器(呼気に含まれるアルコールを検知する機器であつて、国家公安委員会が定めるものをいう。次号において同じ。)を用いて確認を行うこと。
七 前号の規定による確認の内容を記録し、及びその記録を一年間保存し、並びにアルコール検知器を常時有効に保持すること。
この場合、道路交通法第74条の3に基づき、安全運転管理者の解任命令や是正措置命令が出される可能性があります。また、この命令に従わなかった場合には、50万円以下の罰金が科されることになります。
企業としては、アルコールチェックを実施し、その結果を正確に記録することが法的義務であると認識し、徹底的に管理することが求められます。記録の不備が企業の責任問題に繋がる可能性があるため、運用体制の強化と従業員の意識向上が重要です。
6 公安委員会は、安全運転管理者等が第一項若しくは第四項の内閣府令で定める要件を備えないこととなつたとき、又は安全運転管理者が第二項の規定を遵守していないため自動車の安全な運転が確保されていないと認めるときは、自動車の使用者に対し、当該安全運転管理者等の解任を命ずることができる。出典:道路交通法 第七十四条の三(安全運転管理者等)(e-Gov法令検索)
8 公安委員会は、自動車の使用者が前項の規定を遵守していないため自動車の安全な運転が確保されていないと認めるときは、自動車の使用者に対し、その是正のために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。